京都と尾道というタイトルであれば外せないのがラーメンである。
ラーメンはカレーと並んでいまや国民食となっているが、京都には京都が発祥の「天下一品」という名称のフランチャイズ・システムのラーメン店がある。
京都が発祥と聞くとダシが昆布や鰹やシイタケでとった透明でさらりとしたあっさりの薄い味というイメージであるが、これがもって非なるスープなのである。
始めて食べた時は「何だこれは」と正直驚いてしまった。
昔、このスープには箸が立つと言われていたことがあったが確かにそんな気がした。
昭和四十六年(1971)、木村社長が銀閣寺の周辺でラーメンの屋台を引き始めたのが発祥である。
試行錯誤の末、昭和五十年(1975)八月に初の店舗を構えて以来、現在までホノルルの一軒を含め、北は北海道から南は沖縄まで全国に二百三十一軒の店舗を展開している。
広島県では広島市に六軒、福山市に一軒店舗を構えている。
スープの味は「こってり」と「あっさり」とこの二つのスープを半々に混ぜた「こっさり」があるが、まず是非「こってり」を味わってもらいたい。
「こってり」は鶏ガラと十一種類の野菜から作られたスープで、ポタージュのように濃厚でどろりとしており、麺に絡みつくかのようなねばり(・・・)け(・)がある。
このレシピは極秘扱いとされているが、鶏骨をゼラチンが出るまで長時間じっくり炊き出したスープに、鶏の臭みを消して食欲そそる風味をつけるための野菜をたっぷりつかった濃厚な煮こごりのようなものではないかと思われる。
ただ、どろりとしているものの口当たりは脂っぽさを感じさせないまろやかな味わいで、後味は驚くほどすっきりしている。
「あっさり」は鶏がらや野菜などを煮込んでつくる、透明感とコクのあるスープが特徴である。
麺は通常のストレート麺で特に特徴は感じられない。
具はやや小さめのチャーシューが入っており、薬味のネギは青ネギが使われている。
又、店によってはテーブルに「辛子味噌」が備えられており、お好みでレンゲに入れて溶きながら全体にかけて麺をかき上げスープに馴染ませると、辛いというよりスープのこくが増すように感じられる。
尚、スープも麺も完食するとドンブリの底のほうに「明日もお待ちしています」というメッセージがドンブリに焼き込んであるのも面白い。
天下一品の本店は京都の北大路通りと白川通りの交差点を少し南に行った西側にあり、宮本武蔵と吉岡一門との決戦の舞台となった一乗寺の下り松がすぐ近くにある。
一方、尾道ラーメンは昭和三年(1928)、中国の福建省から来日し尾道の製麵所で住み込みで働いていた張さんという人が自家製の麺を使い、瀬戸内海の小魚で出汁を執って屋台で商売を始めたことに始まると言われている。
当時は豚肉ベースの白濁したスープであった。
戦後の昭和二十二年(1947)にはラーメンを中華ソバとして食べさせる店舗が現れた。
尾道への観光客が増大するにつれて、その内いくつかの老舗の中華ソバが注目され、いつの間にか口コミで全国に広まり行列も出来る店が現れるようになった。
平成五年(1993)に福山市の業者がそれらの店のラーメンの味を参考にしてお土産品用の箱入りラーメンを尾道ラーメンとして発売するようになり、折からのご当地ラーメンブームと相まって全国的に尾道のラーメンとして認知度が高まっていった。
行列の出来る尾道ラーメン
尾道ラーメンとはと言っても店毎に特徴があり特定するのは難しいが
一、透明でサラリとした鶏ガラスープに瀬戸内海でとれた小魚を使ったダシを使ったやや濃い目の醬油味ベース。
二、麺は平打ち麺でコシがあって歯ごたえがある。
三、具材としてはやや大きめのチャーシューとメンマを使用している。
四、薬味は青ネギ。
五、豚の背中の赤味に付いている脂分をミンチにしてスープに入れる。
以上が最大公約数といったところである。
魚のダシは味がにごるし、魚臭さが出るので小魚を使っていないという店もあるが、味に迫力を出すために豚の背脂を使い、コシのある平打ち麺というのは共通している。
豚の背脂は他の部位の脂分より比較的脂ぽくないというのが理由であるようだ。
店によって醬油味の濃淡はあるが、スープが比較的サッパリしているので後口は脂ぽくならない。
一度食べたらくせになる味である。
天下一品京都北白川本店
京都と尾道それぞれで生まれ育ったラーメンは、予想に反して尾道の方が京都に比べ薄味である。
京都のこの「こってり」した味付けは、盆地である京都の暑い夏、底冷の冬を乗り越えていく為の京都人の智恵が生んだ産物なのかもしれない。
平成十七年(2005)の尾道市の調査では、尾道市を訪れる観光客の目的は千光寺などの古寺巡りと尾道ラーメンに集中している。
又、尾道を訪れて食べたい物についても断トツで尾道ラーメンを挙げている。
それだけ尾道ラーメンの知名度が高いのと観光客の期待感も大きいことが伺える。
しかし、尾道ではラーメンだけかということでは寂しすぎる。
尾道を訪れた人達にも申し訳ない。
ラーメンのリピーターにも限界がある。
尾道ラーメンの期待が冷めないうちに他とは違うキラリと光るものがないものか。
注・尾道のラーメンのシンボルとも言える中華そば「朱華園」が令和元年六月十八日をもって休業となった。その誠実でクオリティの高い味に親しんできた多くの市民にとっても、遠くからその味を楽しみにして来られる観光客にとっても残念なことである。一日も早い再開を心から願っている。
春夏秋冬。季節ごとに尾道は様々な顔を見せてくれます。
歴史的な名所を訪れるのも良し、ゆっくりと街並みを歩きながら心穏やかな時間を過ごすのも良し、美味しい食事を心ゆくまで楽しむも良し。
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